先日の岩手セミナーでは個人店のあり方や意義なんていうところをお話してきました。オーナーの色や覚悟がある個人店はお客様への刺さり具合もまた別格なんですよね。
たとえ店が無くなったとしても、誰かの心にずっと残る。そんな(人生観)のような意味もありますよね。
例えば、僕の大好きな青森市のらくろの親方タケちゃんが「もう店やーめた!」と言っても僕はセミナーでのらくろを伝えていくはずですし(笑)
高校時代の味
僕の出身校は羽生くんやダルビッシュさんを排出した高校で、隣には薬科大学もあって高校付近には弁当屋や飲食店が結構あった地域でした。結構バイオレンスな学校だったため、放課後缶ビール飲みながら帰る先輩とかもいたし(笑)、こと飲み食いという面では何かと便利な場所でした。
僕は高校時代部活と生徒会活動ばかりやっていましたが、たまに早く学校が終わると楽しみにしていた事がありました。
当時高校近くにあったラーメン屋で(冷たいキムチラーメン)を食べることと、駅近くにポツリとあったカウンターだけの店のカレーを食べる事。
特にそのカレー屋は店主と奥さん二人で切り盛りしていたのですが、アクの強い店主の話しが面白くてついつい通っていました。
肝心のカレーも家で食べる味とは違って「おぉ、これが店の味か!」なんて思いつつぺろりと平らげていました。
当時は家以外のカレーを食べる機会もそうそうなくて、その味がいかに独特のものだったかなんてわからず、専門学校に入って他の店のカレーを色々食べるうちに「あの店のカレーって異端だったんだな、、、」と気づいたわけです。
再訪すると店はもう消えていた
専門学校2年の時、車もあったので久々に高校付近に行ってみようと向かったらあのカレー屋は他の店に変わっていました。(通っていた店が無くなる)初体験で、軽くショックでした。あの味をもう味わえないというよりあの店主に会えない寂しさのほうが上回っていたのも事実なんですが、まぁそういう事もあるだろうなという気持ちになっていきました。
その店主の面白いのは「俺は元々神主だった」「仕事でアジアを転々としていた俺だからわかるけど、これからはベトナムだぞ!」なんて会話が飛び出して占いなんかもガンガンお客様にすすめるんですよね。
僕も母と二人で人生を占ってもらったりして、僕の結果より母の結果のがやたら良くて多少悔しい思いをしたりして。
で、母が何度か大病した時あの占いを思い出して(そういやこの年代に変化あるとか言ってなぁ)とたまにあの店主を思い出す事はあっても、あのカレーの味を思い出す事はありませんでした。
三年前から高校部活のOBで集まる機会が出来て、今年の年末も集まるという事で、あの当時の画像なんかをネタに盛り上がろうと思って色々検索してみました。「30年くらい前だし情報あるわけないだろうけど」とあのカレー屋についてもダメ元で検索してみました。
するとびっくりの検索結果が表示されました
「小松島 唯我独尊 カレー」で検索すると出たのは
「伝説のカレー」という見出しと、なんとあのカレーを再現したカフェが仙台にあるという情報でした。
詳しくそのカフェのブログを見てみると、大学時代に唯我独尊に通っていてついにはアルバイトもしていた方。
大学卒業後一般企業に就職していたものの、とあるきっかけで店主の奥さんとの会話で出ていた単語をヒントに数数年かけてレシピを復活させたというお話でした。
残念ながら僕が高校卒業後、店主は逝去されてしまい奥さん一人で切り盛りしていたのですがあえなく廃業となっていたそうです。
カフェオーナーさんは、味の記憶と奥さんとの会話に散りばめられたヒントだけであの味を作り上げたということです。
仙台 カフェパルメイラさん
そのカフェは仙台、仙石線原町駅すぐそば、坂下交差点から徒歩30秒のところにありました。僕はたまらず翌日訪問しました。
パルメイラさんはカウンター5席、奥に小上がり2つで合計11席のこじんまりとした作りでオーナーさん一人で切り盛りしていました。
「あのカレーがあると聞いてたまらず来ました!」と伝え早速カレーをいただきます。
目の前に現れたのは具が無いあのカレー。
食べ始めるとチリペッパーの辛さではなくてブラックペッパーなどのシャープな辛さ。そして多少ざらっとする舌触り。
唯我独尊のカウンターで店主と奥さんが二人にこにことしている光景を思い出し、
そう、そう、うん、うん、
と一人でつぶやきつつ、あの頃と同じように一気に平らげていました。
僕の中に唯我独尊はまだ存在していました。
カフェパルメイラさんの唯我独尊カレー誕生までのストーリーはこちら
ちっちゃい家業の飲食店って、店主の城であっても良いと考えています。イメージとしては趣味の部屋に共感できる人が集まってくるような。
「某有名大学からカレーのレシピのヒントを貰った」
「仕事で海外を飛び回っていた」
「北海道の神主の息子だ」
「このソーセージはドイツから直送してもらった特別品だ」
などなど、パルメイラのオーナーさんと唯我独尊の店主の思い出を話していると
「どこまで本当かどうかわかりませんでしたよね(笑)」と二人で爆笑。
オーナーさん、しまいには祭りの助っ人なんかも店主からお願いされる仲になったとか。
そんな体験やアクの強い店主がだったからこそ、パルメイラのオーナーさんの記憶にカレーがぶっ刺さったのですよね。
個人店の意義
唯我独尊って4年くらいしか営業していなかったはずなんです。その店が廃業して四半世紀も過ぎた今も誰かの中にあったり、店や人が変わったけれど商品が語り継がれているってロマンを感じませんか。
人が本当に死ぬときは忘れられた時だ。
そんな言葉があります。唯我独尊の店主はまだ当分死ねませんよね。
僕自身、店で出会ったお客様が何組か結婚し子供も生まれていて思う事は、近い将来その子供が「ママとパパはどこで出会ったの?」なんて聞かれた時また僕の店を思い出してくれるんじゃないかな。誰かの人生のきっかけになったり、人生のどこかのページの一つに刻まれていたらと考えると(店やってよかったな)とつくづく思うわけです。
派手に稼いだわけじゃないけど、誰かの中にずっと寄り添える。
そんなのも、店主とお客様の関係性が密な個人店の最上の喜びなのかな。そんな事を一皿のカレーで思ったわけです。
カフェパルメイラさん、ごちそうさまでした!またお邪魔しますね