先日、本年度の秋田湯沢仕事が無事終了いたしました。
もはや6年目なんですね、駆け出しペーペーだった僕を育ててくれた湯沢の街。はじめの頃はホテルと支援先の往復しかありませんでしたが、最近はそこに一軒の店が参入してきました。それが前にも記事にしたフォトメモリー写優館さん。
親方のヒッシーはプロカメラマンで様々なコンテスト受賞してたりしているのですが、全くそうは見えません。毎度店に行くとヒッシーは
「おめぇー!このぉー!」
「ばぁかでねぇのが!」
「今日はくいもん何もねぇど!」
なんて事言ってくれるんですよね。
字面にするととんでもない店だ!と思われるかもしれませんが、実際にその言葉を聞くと(親方なりの歓迎なんだな)と大きく印象が変わります。
好きな店の共通点
僕と付き合いがある方はご存知だと思いますが、僕が好んでいく店には共通点があって
◯親方、もしくは女将の口が悪い
◯店とお客様との距離が独特
◯常連さんが新規客を接客してくれる
この3つが揃っています。青森市のろばた鎌蔵のらくろサンや、このフォトメモリー写優館、今はなき仙台のバーベキューハウスKAOBCなどです。
親方の口が悪い店は世の中に結構あって、僕も出くわす事しばしばなのですが上記の店のようにハマってしまうまで至らない事が多いというか、気分を害する事もあったりします。
ハマっている店とはまらない店の何が違うのか。それは(店の自信の担保となる事があるかないか)という事に気づきました。
KAOBCは僕が20代の頃お邪魔していた店で、ここも親方の口がめっぽう悪かった(笑)だいたい20時くらいになるとスキットルに入れた焼酎を飲みだして酔っぱらうのが恒例で、逆に「僕らに心許してくれたんだ!」なんて嬉しくなったものです。単価7,000円程度のバーベキューハウスでお客様は医者や士業が多くて僕なんか浮いていましたが、肉が圧倒的にうまかった。思い出補正はあるはずですが、今もあそこのレバ刺しがナンバーワンだと思っています。その商品力が接客をカバーというか
「お客様のためにここまで丁寧に仕事している人」というのがお客様にしっかり届いているから愛嬌として受容されている。
青森市ののらくろは言うまでもなく商品力と店舗クリンネスは無い(笑)けれど圧倒的な接客力というか「接客トークをがんがん詰め込むぞ!がんがん押し込むぞ!」の接客がすでに商品になっている。
そして冒頭の写優館は建物自体はとっても古いけれど、磨かれた厨房といつも清潔なテーブルでクリンネスはひとまず安心、商品構成は駅そばをテーマにしていて価格帯もそれに準じているのにわざわざ麺を締めるために冷蔵庫で冷やした水を使ったり冷と熱でかえしの割合を変えていたりと実は努力している。一見すると全くそんなこだわり見せていないのもまたポイント高い。
で、ここに書いた店の中で一番言葉が悪いのもこちら。
QSCを全て高レベルにしていくという飲食店のセオリーはありますが、個人店の場合一つをとことんまで特化する事も方法としてあり、という話です。RPGで言えばステータス攻撃に全振りしちゃう感じですね。
狙っている訳ではないでしょうが、あえて弱みをさらけ出す事によってお客様に突っ込んでもらう関係性が作られている。
「あそこの店めちゃくちゃ雑然としているし飯も変なんだよ」と誰かに思わず言ってしまうけど、その表情は決して否定している訳でなく笑顔というシーン体験した事ありませんか?
むしろそれを嬉々として伝える様は「俺そんな店に通っているんだぜ」とどこか誇らしげだったりする場合ありますよね。否定されると自分の店のようにムキになったりするなんてもあります。ラーメン二郎にも似たような空気を感じますね。
業態にもよりますが、僕の接客の引き出しの中で(敢えて弱みをさらけ出して距離を縮める)というのがあります。まさにそれを店作りに活かしたのがこの愛すべきお店たちなのでしょう。
だからこの店は愛される
これって決して手抜きという訳じゃないんですよね。実行するためには自分の中で決して譲れない物があるかどうかって事だし、その軸がぶれていないからこそ弱みを突っ込まれても動じないわけです。弱みを見せる覚悟は並大抵のことではないですから。
完全無敵のお店というのも魅力的ですが、どこかにツッコミ所がある店もお客様側が勝手に補完してまるで自分の店のように思ってもらえるなんて夢のある話ですよね。
演技は観ているお客様に咲く、という世阿弥の言葉もあるらしいですが、「店はお客様が咲かせる」というのもまた一つの個人店の楽しみ方なんじゃないかな。そんな事を思うわけです。