その昔、ツルモク独身寮という青春群像劇の名作漫画がありました。柔道部物語と共に語りだしたら止まらない作品の一つですが、その登場人物の一人が会社を辞めて喫茶店を立ち上げた話があり、優雅にヒゲを生やしエプロンで珈琲を入れる姿に10代だった僕は憧れをもって何度も読み返したものです。(次に描かれた「ワタナベ」も名作です)
そのせいもあってか、ホテルを退社した後に喫茶店で勤務したり自店舗の一つを喫茶店に業態変更したりしていました。そして最近は珈琲にすごいこだわりを持っているというのではなくて、昔から続く、食堂未満のような喫茶店が行っている様々な工夫に心惹かれていくようになってきて、出張のたびに色々と喫茶店巡りをするようになりました。
仙台はアーケード街の家賃が激高になったりで古くからの喫茶店がどんどん消えてしまっているのですが、岩手はまだまだ健在なんですよね。北上のとある喫茶店では入り口に「人気ナンバーワン 和風ハンバーグ」の文字がありすぐさま入店して注文しました。
このタイプの喫茶店はピラフとデミソースのハンバーグはレトルトの可能性がとても高く、メニューを見ると何にでもハンバーグ乗せている商品があったりするのですが、こちらの場合はデミソースハンバーグがなく、和風ハンバーグがメインなので手作りの可能性が高いのでは?と注文をしてみました。
テーブルに到着した和風ハンバーグ、さすが喫茶店のボリュームです。食後のドリンクが付いて700円。でも何か普通のハンバーグと様子が違うな?と思いよく見ると、ハンバーグに竜田揚げのように薄く衣が付いていました。焼くのではなく揚げるハンバーグでした。
こちらでは焼き具合の確認が必要なフライパンでの調理ではなくてフライヤー(天ぷら鍋)に投入して揚げ時間だけ管理しているようです。これならピークタイムでも同時にいくつも調理ができますし、付け合せのイカリングも一緒に仕上げられます。
揚げるとなると脂っぽくなりがちですが、肉に豆腐を混ぜる事でカバーしていましたので飽きずに最後まで食べ切れました。
おそらくはオープン当初はフライパンで調理していたのでしょうが、お客様をお待たせしすぎてしまいこのような工程となったのでしょう。他のテーブルもほぼ和風ハンバーグの注文でしたので、この作戦は大成功のようです。
喫茶店はどうしてもパフェやドリンクメイクに場所を取られてしまいがちで、調理スペースを削る場合が多くて、少ない調理器具でいかに効率よく料理を仕上げるかがポイントとなります。それと多くの店では家庭用コンロで調理している場合もあります。
僕が勤務していた喫茶店も家庭用コンロ一つとトースター一台で25席をやりくりしていました。一時期長いソーセージをトッピングで乗せるメニューが喫茶店で流行りましたが、それも家庭用コンロの魚焼きグリルを活用するための工夫でした。
他に喫茶店メニューの定番といえばナポリタンですね。ナポリタンも喫茶店の工夫が生み出したメニューなのはご存知でしたか?
オーダーのたびに麺を茹でるにはコンロと調理時間の負担が大きく、そこで考えられたのが麺の茹で置きでした。予め硬めに茹でたパスタにオイルをかけて乾燥を防ぎ、具材と一緒に炒める事でフライパン一つで調理が完了する工夫です。麺をソースとあえるのではなくて炒めるというのがポイントで、それがかえって独特な麺のもっちり感につながったというのも面白い話です。
狭いながらも様々な工夫で乗りって新しい商品を生み出す、というのは昔の日本を思い出すようです。そんな事を考えつつ頂く喫茶店料理はまた味わい深いものがあるので当分喫茶店巡りは続きそうです。